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株式会社アクト・コンサルティング

経営コンサルティング

ノウハウはマネジメントすることができる

    ノウハウのマネジメントは、流通業のチェーンオペレーションや、コンサル会社などで見られます。例えばあるコンサル会社では、秀でた成果を上げる人材育成のために、ノウハウの組織的な共有・拡充が行われています。
まず入社後の早い段階で、「難題を与え、失敗させた後で、ノウハウを教える」という方法で、社員にノウハウの存在とパワーを認識させます。例えばコンサル・プロジェクトのマネージャーが、若手コンサルタントに対し、「来週の顧客との会議で、顧客の中期経営目標を決めろ」と指示を出します。コンサルタントは、勇んで準備を行い、会議で顧客の社長に向かって「貴社は今後3年間で20%の利益増大を目指すべきです」と言います。すると社長は、「それでは低すぎる」と怒りはじめます。担当役員たちは、「20%は不可能だ」といい始めます。若手コンサルタントの表情が、みるみるこわばっていきます。
しかしこれは、マネージャーの想定どおりです。このコンサル会社のマネージャーは、「いろいろご意見が出ましたので、来週まとめましょう」といって会議を終えてしまいます。このコンサル会社では、部下に仕事を任せて問題が起きても、自分が解決できる範囲であれば、むしろ積極的に、部下を問題の渦中に入れてしまうことが(顧客満足度を低下させない範囲で)奨励されているのです。

会議の後でマネージャーは、この若手に対し、箸の上げ下ろしではなく、ノウハウを指導します。「目標決定は意思行為だ」というノウハウを与えるのです。
「中期目標を決めるにあたり、未来は完全に予測することはできない。そこで、経営者にとって、どのような高度な分析の結果であっても、他人が出した数字は参考情報である。経営者は、それらを参考に、最後は『意思』で決める。
お前は、事前に社長に、どの水準の目標を掲げたいか意思を聞いたのか。その水準は、プロとして見て正しいのか。
正しいとした場合、担当役員はこの目標に対してどのような反応を示すのか。もし消極的な反応の場合、どのようにして彼らを鼓舞するのか。これらを行うのが君の役目だ。君が数字を決めてどうする・・・」などと指導するのではありません。まず一言「目標決定は意思行為だ」と教えるのです。細かい指導はその後なのです。

このような指導が続くと、若手コンサルタントは、毎回泣かされた後で指導される「短い言葉」が自分を救ってくれることに気が付き始めます。そこで、短い言葉を修得する努力を始めるのです。ここで短い言葉は、コンサル会社で先輩達が見出したノウハウです。このノウハウは、秀でた思考と行動を達成するための「本質的な考え方」と言ってもいいでしょう。若手コンサルタントは、このような指導によって、大量のノウハウを修得していきます。

コンサル・プロジェクトのマネージャーになると、時間があれば、同格や先輩コンサルタントと、ノウハウを共有・拡充する会議を始めるようになります。会議といっても、ちょっとした立ち話や、食事時の議論が主です。ノウハウ拡充会議の様子をみてみましょう。

A:顧客が『若造に何ができる』、『私が一番知っている』といった感覚を持って接してきた場合、このようなモードをどうやって打ち崩している?

B:僕は、まず顧客の実態を聞き、その中で問題と感じるところを、それを示す顕著な事実と共に承り、幾つかの問題が確認できたところで、それらをまとめた構造的な問題を指摘し、その後はステアリングを握るね

C:僕の場合は、・・・

A:なるほど。では、今後このような方法に、「コミュニケーション・モード・チェンジ」という名前をつけよう。新しい方法が見つかったら、また議論しよう・・・

彼らは、ほんの数分の会話で、「コミュニケーション・モード・チェンジ」という新しいノウハウを創造した訳です。このような会話は、先輩から受け継いだ伝統として継続されています。また、このようなノウハウの共有・拡充が、自分のコンサルタントとしての能力を高める重要な方法であることを、認識しています。コンサル会社の解決する問題は難しく、しかもこれを解決することを、高い単価でコミットしています。ノウハウを徹底的に充実しておかないと、仕事を進めることが出来ないのです。結果、次から次へと新しいノウハウが生み出されていきます。

何人かのコンサルタントを束ねる「パートナー」になると、担当するチームの業績を常に高めなければなりません。そこで、先に示した「難題を与え、失敗させた後で、ノウハウを教える」という方法で、徹底的に部下を鍛えるのです。

一般の企業では、人材育成のために、業務遂行の手順や技術、知識を学ばせることが多いでしょう。これらの手順や技術の中にも、先人が生み出したノウハウは含まれています。しかし、その量は少なく、またノウハウとして整理されていません。もちろん一般企業の中にも、多くのノウハウを持った、秀でた人材はいます。しかし彼らは、自分がどのようなノウハウを持っているか、自覚していないことがあります。ましてや部下に、箸の上げ下ろしではなくノウハウを直接指導したり、仲間と日々、ノウハウを共有・拡充することは行っていません。つまり、ノウハウはマネジメントされていないのです。

一般企業では、ノウハウはパワーがあるが、抽出・体系化することは難しい。せいぜい組織的に出来ることは、「ノウフー情報(誰がどのような分野のノウハウを持っているか)」を共有するしかないと考えられています。しかし上記のとおり、ノウハウはマネジメントできます。そしてその効果は、大変大きなものです。ノウハウ・マネジメントは、企業に残された、経営革新のニューフロンティアなのです。

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