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IT投資マネジメント革新プログラム・・・ IT投資マネジメント革新の視点

IT投資マネジメントの仕組みを確立しているという企業でも、実際には、利益創出が不十分なIT投資が散見される。実態は後述するが、この打開策として「IT投資で利益を上げる方法を、企画段階から、ビジネスの言葉で明確化する」という方策がある。
IT投資で利益を上げる方法をビジネスの言葉で明確化したものを、当社ではIL(イノベーション・ロジック)と呼んでいる。「IL」とは、例えば以下である。

  1. グローバルグループで、各営業マンの実績を日次把握し、計画よりも大きく拡販できている営業マンの営業日報を世界中で毎日確認できるようにすることで、世界中で生み出された拡販ノウハウ(ターゲット顧客と拡販方法)を迅速にグループ内で共有し拡販を果たす
  2. 各国販社で実施している需要予測を止め、販社からは販売実績のみを報告させ、日本のセンターで需要予測・生産計画策定を集中して実施することで、各販社がそれぞれ独自に設定していた余裕を統一的に管理・最小化し、これによって在庫を削減する

ITは投資であるので、投資を賄って余りある利益を上げなければならない。ILとは、現行業務をどのように変え、これによってどのように利益を増大させるか、論理的に説明したものである。
ILは、一見当たり前のように思える。しかし現場では、何故利益が生み出せるか、増やせるか、ロジックが曖昧な「美辞麗句」が、何の疑問ももたれずに合意、承認されている例がある。例えば生産管理システムの場合、「受注、生産、在庫、生産計画を営業部門から随時参照できるようにすることで、納期回答を早め、顧客満足度を向上させる」は、イノベーション・ロジックではない。「顧客満足度を向上させる」では、何故利益が生み出されるか、論理的な説明になっていない。これが、「…納期回答を早めることで、顧客が当社の納期回答が遅いために短納期品の発注を控えていたのを是正し、長納期品と同等まで短納期品のシェアを挽回することで利益を増やす」となればILが定義できたことになる。
ILが明確化できれば、経営者は、IT投資を他の設備投資と同様に理解できる。企画段階でIT投資を厳しくレビューし、的確なアドバイスを与えることができる。ILが不十分であれば、知恵を結集して充実させることができる。ITベンダーにも、ILを提案させ、自社の利益増大に貢献させることができる。先行企業の中には、ILの概念を経営者、IT企画者、関連部で共有した後に、IT企画書のフォーマットを変え、「定性効果」の項目を取り払い、「定量効果」一本で評価を進めているところもある。

現在、IT企画段階で、ILを明確化し、実現性と効果を実証している企業は、極めて少ない。多くの企業は、IT投資の企画承認段階では、美辞麗句が示される。そしてシステム開発が始まってから、現状分析、問題・要望の調査を開始し、運がよければ投資を回収する利益増大方法を生み出す。しかし運が悪ければ、投資回収に十分な利益増大方法は見つからないまま、システムが出来上がる。つまり、IT投資決定後に回収方法を考えるという遂行方法が、大手企業でも実際に行われている。

ILが明らかになれば、「ITと業務の両方の目指すべき姿」が明確化できる。例えば先の、「グローバル拡販ノウハウ共有」のILを実現するには、まずITでは、販売実績を日次で収集し、販売計画との差異を明確化し、営業日報と共にグローバルグループで共有するシステムが必要になる。一方業務上は、日次ベースの販売計画を策定し、実績を報告する。また、営業日報を登録し、市場変化や拡販施策とその評価を報告する業務プロセスの確立が必要である。つまりILの明確化で、ユーザー部門は、IT化とセットで実現すべき、業務革新方法を理解することができる。経営者も、業務革新に必要な意思決定やリーダーシップの必要性を自覚することができる。
ILに基づいて「ITと業務の目指すべき姿」が明確化できれば、これらと現状のギャップである「実現のための課題と対策」を議論できる。「グローバル拡販ノウハウ共有」の場合、世界の営業マンに、確実に営業日報を報告させることが必要である。中には、そもそも日報を書いていない子会社があるかもしれない。この課題解決には、IT企画者が、企画段階で効果の大きさを事実に基づいて明確化し、これを基に経営者が、革新断行のリーダーシップを、世界の営業部門に対して発揮することが必要になるだろう。
つまりILを基に、「ITと業務の目指すべき姿」、「実現のための課題と対策」を論理的に明確化し、事実で実証することで、経営者、ユーザー部門が、システム開発に深くコミットし、必要なリーダーシップを発揮し、必要な協力や合意形成を得ることができる。

ILが曖昧だと、システム開発においても、大きな問題を抱え込むことになる。システム開発において、最初から投資を回収するために実施すべきILが不明であると、どこまでの要件を満たすシステムを作ればいいかわからず、現場の細かい要望や問題を拾って、システム化の要件が爆発的に増え、これが予算や納期オーバーの原因になる。しかも、予算や納期超過をしても、効果(生み出す利益)は大きくない。もし、最初からILを明確化できれば、要件をILに対する貢献度で評価し、要件が爆発することを防止できる。

企業にとって重要なIT投資の場合、社内のエース級人材の投入や、コンサルタントの活用などで、企画段階でILが明確なこともある。しかしこの場合でも、ILの概念が関係者全員に理解されていないと、システム開発の要件確定時に、ILを明確に認識しないまま要件爆発が起きる。あるいは、システムは出来上がったが、セットで実施するべき業務革新が行われず、利益増大が図れないという事態が起きる。実際、このような事例は、列挙に暇がない。
なお、ERP導入でよく聞く「ベストプラクティス」は、業務プロセスのことを指しており、何故そのような業務プロセスになったか、背景にあるILは不明である。ベストプラクティスの裏に存在するILを理解しなければ、成果を上げることは難しい。

ILは、保守・運用費の削減にも、大きく貢献する。保守要求に際し、「何故利益を増大させるか」保守のILを必ずセットで明確化する仕組み、これをレビューする仕組みを作るのだ。一つの保守要求に対応すると、これをフォローするユーザー業務やコールセンターなどの運用業務が増え、またシステムの複雑性が増し、これらが累積して、運用保守費を膨らませる。これらのコスト増を賄うだけのIL(利益増大方法)を説明できない保守は、まず本当に必要か、業務側の改善で対応できないか、徹底的に考えるべきである。そうでなければ、新規戦略投資に回す、十分な原資が生み出せなくなる。

ILの効果は、単に1つのIT投資テーマの投資効果を上げる。また、保守運用費を削減するだけにとどまらない。グローバルグループのIT+業務革新のノウハウ共有にも貢献する。大手企業の中には、国内子会社や海外現地法人、買収した企業の、ITの機能や範囲は押さえているところもある。しかし、そのIT化で実現しているIL、IT化とセットで実施された業務革新方法まで把握している企業は稀である。
グループ各社のILを、日本本社で把握することで、買収した企業が持っている革新策、海外の子会社が生み出した革新策を、グローバルグループに還流させることが出来るようになる。先行企業では、本社情報システム部門を、グローバル業務革新ノウハウ共有のセンターとしているところもある。

投資後の評価も、ILが明確であると、確実に実施できる。ILは、利益を増大させる方法をビジネスの言葉で論理的に説明したものであるため、KPIに展開できる。また、ユーザー部門側で実施すべき業務革新の姿を明確化する。そこで、IT投資後、KPIがどこまで達成できたか、ユーザー部門は、計画通りの業務革新を達成したか、明確化できる。また、目標KPIの達成ができていない場合、ITに問題があったのか、業務革新が不十分だったのか、ILに誤りがあったのか判断でき、的確な是正策を実施することが可能となる。

以上示した、ILを機軸とするIT投資による利益増大を実現するためには、まず経営層、システム部門、ユーザー部門関係者が、ILの概念を共有することが重要である。また、IT企画提案、システム開発、保守運用、投資評価のプロセスを、ILを明確化し、レビュー・フォローできるように改定することが求められる。ILを駆使した企画提案、システム開発、保守、投資評価、グローバルノウハウ共有が進められる人材育成も必要である。

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